1月
20
2013

シャープの電子ノートWG-N10を購入

電子ノート WG-N10

 シャープの電子ノートWG-N10を買いました。経営難のシャープが久々に出してきた尖ったガジェットですが、商品路線としてはキングジムの最近の電子ガジェットと同じ方向ですね。入力方法は、添付のスタイラスペンによる絵の手書きだけで、キーボードとかのテキスト入力機能は一切ありません。この辺りの搭載機能の割り切り方は、やはりキングジムのブギーボード Ripと似ていますね。初代ブギーボードは、書いたものをデータとして残しておく機能などない、電子ペーパーの特性を利用した落書き板だったのですが、Ripではパソコンにデータ出力が可能になった点も似ています。

 WG-N10は手書きメモに特化している事が最も目立つ点ですが、一枚一枚切り離して情報を扱うメモではなく、複数枚にわたって分類・整理するためのノートという形で情報を管理します。本体サイズはA6サイズの手帳と同等ですが、手帳のように1冊に様々な情報を書き留めるのではなく、複数のノートを束ねたものと言ったところですか。
 先にブギーボードの名前をあげましたが、あちらはすぐに消してしまうような一時的な情報や、試行錯誤の場として使うことが念頭に置かれて作られたものです。そう考えると、商品路線は似たようなものでも、コンセプトの深いところは異なる様です。

 発売前にも幾つかレビューが出ていて(ASCII.jpPC Watch)、興味がある方は読んでいらっしゃると思うので*1、ファースト・インプレッションだけを書こうかと思います。

 ハードウエアとしては、本体サイズは既に書いた通りにA6サイズの手帳と同等。厚みは約1cmですが、付属の専用カバーをつけるのが前提とすると、ほぼ2cmに近くなります。見た目の印象よりも、重さを感じます(本体のみだと210g、スタイラスを収納したカバーを付けた状態で315g)。画面は、600×800ピクセルのシャープのメモリ液晶。メモリ液晶のおかげで、低消費電力化が可能になったということの様で、一ヶ月ほど充電が不要になるとの事です(カタログ記載。1日の使用時間が記入40分、表示80分の2時間の場合)。

 届いて1日使ってみたところでの感想ですが、書き心地は良いです。描画時の描画軌跡のスタイラスへの追随も、素速く動かしても全く問題なく、曲線もなめらかに描けます。6インチ画面に600×800の解像度なので、結構細い字や絵が描けます(ただし、描画に使うペンは、一番細くしても1ピクセルの幅にはできない)。描画に使うペンには線の太さが三種類あり、任意の太さには設定できません。ペンの他に、濃さの異なる「マーカー」というツールが用意されていて、マーカーの一番細い線が、ペンの一番太い線と同じ太さです。この他、消しゴムが用意されています。濃さ・太さの異なる描画ツールと、消しゴム機能が提供されている2点で、ブギーボードとは一線を画した実用性をもたらしています*2
 一方、この機能では、タブレット端末のペイントソフトで完全に代用できるでしょう。タブレットなら、多くはカラー画面なので、多色の描画が可能ですし、表現力という点では本製品は太刀打ちできません。では、何故、タブレット端末が普及しつつあるこの時期に、シャープが本製品を出してきたのか(あるいは、タブレット端末を多数所有している私が、本製品を買ったのか)というと、専用機だという点でしょう。すでに書いた通り、スタイラスの追従性能は全く問題ありません。汎用のタブレット端末では、タッチパネルからの入力機構が手書き描画に最適化されているわけでは無いので、曲線がカクカクしたものになったり、スタイラスの動きより軌跡の描画が遅れたりする事が多く、集中力が削がれます。また、静電容量方式のマルチタッチ(同時多点検出)が可能なタッチパネルでは、スタイラスで書くときに、ペン先と手の両方が画面に触れると、手の方が誤検出されたりする可能性がありますが、本製品は感圧式(抵抗膜方式)なので、爪では描画できますが指先などではかなり強く押さないと感知されません。より自然に描画が可能というわけです。さらに専用機のメリットを上げると、電源を入れてすぐに使える点でしょうか。タブレット端末も電源を入れてすぐに使えますが、アプリを選択して起動しないといけないという手間があります。
 
 さて、色々とWG-N10の良いところを書いてきましたが、それは他の環境(製品)との比較において、私にとっての購入の決定材料となった点です。これらの点については、実際に入手して使った結果、満足しています。実売価格が高すぎるという声も聞きますが、(先程から何度もあげている)ブギーボード Ripの実勢価格と比べると、決して高くは無いでしょう(安くもないですが。本製品単体で考えると、あと2〜3千円程度安い辺りが適正か)。
 ですが、「電子ノート」としての完成度として考えると、少なくとも私には満足できるものではありません。
 まず、画面に関して。バックライトなどの照明機構が無いので、ある程度覚悟はしていたのですが、暗いです。解像度が割と高いために細い線は本当に細く表示され、それが余計にコントラストを弱めることになっているのか、みづらいです。コントラスト調整などの機能が無いので、本体を傾けたりして角度を変え、見やすい方向を探らないといけません。スタイラスの反応や、描画速度、解像度などには不満が無いだけに、これはすごく残念。シート型のフロントライトや、持ち運び時に邪魔にならないライトを搭載したカバー(Sony Reader用ライト付きカバー PRSA-CL20)の様なオプションが出てくれたら嬉しいところです(シート型だと、書き込むのに邪魔になるけど :biggrin_wp:)。
 ソフトウエア上での不満がいくつかあります。ペンやマーカーの太さがそれぞれ三種類しか無いというのは、実際のボールペンとかもそれほど太さに種類があるわけではないので気になりません。マーカーとペンが独立して(消しゴムで)消せる機能なども搭載されていて、これで十分です。でも、1〜2段階程度でいいので、アンドゥ機能を搭載してほしかった。アンドゥ機能は「電子ノート」ゆえの特権ですから、ぜひとも対応してほしい。
 また、ページの順番変更や、ページ丸ごとの複製、ページ内での範囲選択による複製(コピー&ペースト)などもほしい。本製品では、書いたノートの各ページを画像ファイル(600×700の16色BMPファイル)として出力できますが、それをまた本製品に取り込むと、その画像をページの背景として新たなノートが作成されます。背景として、というのは、消しゴムで消えないということです。フォーマットに従った画像を用意することで、任意の背景を持ったノートを作成することも可能です。実際の所、本製品のウリである、あとから増やせる追加リフィルというのも、この機能を使ったものです。ただ、面倒な事に、1枚の画像で1ページしか作成できません。同じ背景で複数ページのノートを作りたい場合、同じ画像ファイルを異なるファイル名で必要枚数用意するか、何度も画像取り込みを行って(画像取り込み機能は、一度の作業で1冊のノートしか作れない)から、ページ移動(現在表示中のページを他のノートに移動する)機能で合成していくことになります。これが、ページ複製機能か、ページ追加時に現在の背景画像をコピー(再利用)する様な機能があれば、かなり楽になりますし、「リフィル」機能がかなり意味のあるものとなると思います。あるいは、最初から用意されている背景(こちらは「フォーム」という名前)を、ユーザーが追加できる様な機能があれば、それでもいいと思います。フォームとリフィルの違いは、後から切り替えられるかどうかです(少なくともユーザー目線では)。フォームの方は、描画済みの内容に影響を与えず、後から別のフォームに変更する事が可能ですが、リフィルの場合は不可です(フォームに割り当て変更する事もできない)。どうしてこんな中途半端に似た機能を別系統で提供しているのかわかりませんが、是非改良してほしいところです*3
 描画機能としては、ページやノートのロック機構もほしいところです。この場合のロックというのは、書き込みを不可に設定することですが、セキュリティ対策として、表示も不可にできるとさらに良いかもしれません。発売日になって、追加リフィルも公開されましたが、単位換算表や郵便料金表などの、便利情報系のリフィルも入っています。閲覧主体の情報リフィルですが、これにも書き込む事はできます。書き込んでも、リフィルであれば消しゴムや描画内容の消去(「白紙に戻す」機能)で、背景画像に影響なしに消すことができるので問題はありません。しかし、自分が書いた(リフィルの背景になっていない)描画内容を閲覧している最中に、うっかりスタイラスが触れて書き込んで(あるいは消しゴムで消して)しまった時などは、元通りに直す手段がありません。アンドゥが利用できれば、まだ何とかなりますが、それも提供されていないので困りものです。書き込み不可にするか、描画ツール(消しゴムも含む)を無効にできれば、それですむので何とかしてほしいところです*4
 他にもいくつか、まだ洗練されていないなと思われる部分はありますが、ファームウエアのバージョンアップ等で上記が解消されれば*5、使い出のあるデバイスだと言えるでしょう。

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価格:14,800円(税込、送料込)

--- --- 脚注 --- -- -- -- -- -- -- - - - - - - - - -
  1. 全く興味が無い人は、これを読んでいないよね :smile_wp: []
  2. 他、ブギーボード Ripでは、描画内容を保存してパソコンに出力する事はできるが、保存したデータをブギーボード上で表示する機能は無い。また、描画内容を保存したい場合は、保存開始ボタンを押して保存モードにしてから、専用のスタイラスを用いて描画し、モードを終了する必要がある []
  3. シャープ提供の追加リフィルを見ると、フォームの様に情報を書き込むのが前提になっているもの以外に、郵便料金表や単位換算表などの、閲覧するための情報を記した「ユーザーが書き込まないのが前提」のものもあるので、現実のシステム手帳のメタファーとして「リフィル」としたのかも []
  4. 閲覧時にスタイラスを持っていなければいいという考え方もあるが、ページめくりなどの操作にはスタイラスが必要になるので却下。ハードウエアでページめくりボタンが搭載されていれば何とかなるけど []
  5. 液晶に関してはハードウエアなので、後付けライト以外に方法は無さそうだけど、コントラストとか濃淡とかの調整機能くらいどうにかならないかなぁ…… []
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